LOGIN大学の入学式で、桃歌は幼い頃に離ればなれになった“そうちゃん”によく似た青年を見かける。しかも彼は、桃歌のアルバイト先の喫茶店に現れた。けれど再会を喜ぶ桃歌とは裏腹に、彼の態度はどこか冷たい。遠距離恋愛中の彼氏との関係にも迷いを抱える中、止まっていたはずの初恋が、静かに動き始める――。焦れ焦れ幼なじみ再会ラブ。
View More──どうしてこうなった。目の前には何故か勝ち誇った表情の里香。斜め上には絶対に目を合わせるものかと意志が丸わかりの、顔を強張らせたももちゃん。何でよりによってB6しか空いてなかったんだよ。ていうか朔兄ぃ……。ロミオに着いたタイミングで朔兄ぃのスマホが鳴った。「はい早乙女」早乙女とは、朔兄ぃの苗字だ。電話に出ると、一段と声が低くなる。ハードボイルドな朔兄ぃ、かっけえ。「──何?そうきたか……ああ、今出先でな……ああ、またかけ直す」朔兄ぃは通話を終えると、気まずそうに俺に告げた。「ちょっと仕事の電話がな、その、長くなりそうなんだ。先入っててくれるか」無理言って今日は来てもらっているんだ。俺に何かを言う権利は無い。「はい!先に入ってます!」嬉しそうに答えるんじゃない。確かに朔兄ぃが再び電話に戻ったら俺と里香だけか。長くなるとは言ってたけど、きっと朔兄ぃはすぐに戻ってくれるはず。仕方無く、里香と2人だけの状態でロミオのドアを開けた。「いらっしゃいませー。お客様…………2名様でよろしいですかー?」一瞬固まったであろうももちゃんが定型文で乗り切ってるのが見えた。違う、違うんだももちゃん。このあとすぐに、朔兄ぃも来るから。こいつと2人きりでロミオに来るだなんて、そんな意味不明なことする訳ないだろう。この俺が。朔兄ぃが俺達のもとに戻ったのはそこから1時間も後にだった。「悪いな。何とか収まったっぽい」「大丈夫です。大変ですね、警察官って」だから首を傾げるなと。全てを諦めた俺の顔はきっと今死んでいる。ももちゃんはというと、朔兄ぃが戻ってくる直前に休憩に入ったらしい。朔兄ぃに店長がお冷とおしぼりを出した。「あ、すみません。もう出ますので。お前ら、もういいだろ」お前らって言わないでくれよ朔兄ぃ。
「うわああああっ!」出てもない涙が出ている風を装って顔を覆うという演出、おつ。でもこいつの声がデカ過ぎてかなりの迷惑だ。メニューを手に取り、里香が注文したドリンクの値段を確認する。550円ね。財布から小銭を取り出す。店員は俺達のテーブルになかなか近づけず、俺のオーダーは取られていなかった。手を挙げ店員を呼ぶ。「すみません、すぐに出ますんで。これ、お代です。ほら、迷惑だから行くぞ」「行かないっ!蒼があの人と別れて私と付き合うまで行かないっ!」困り果てた店員と顔を見合わせて途方に暮れていた。その時だった。「迷惑だって言われてんだろ。早く外行けよ。マジで通報するぞゴラ」いつの間に移動していたのか。朔兄ぃがドスを効かせた声で顔を覆ったままの里香の真横に立った。朔兄ぃ、マジで怖え。顔を上げた里香は口を開けたまま固まっていた。その頬には何も流れていなかった。「ストーカー規制法第十三条。ストーカー行為をした者は、一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。知らねえわけじゃねえよな?」淡々と条文を述べる朔兄ぃ。ただもう格好いいです。「わ、私、ストーカーなんかじゃ」いやいやいやいや、お前、マジで立派なストーカーだっての!「あのヤバい手紙を送りつけておいてよく言うよ。俺、あれ見て人生で初めて貧血起こしたからな」強気で言ってるはずが。何か俺、言ってる内容もしかして恥ずかしい?「それに俺の彼女への嫌がらせ。知らないとは言わせねえよ?」「い、嫌がらせ、なんて……」「俺と同じ学科のお前のツレが俺の彼女にしつこく嫌味言ってるの、知らないとでも?」目を見開いた。こいつ、やっぱり知ってたな。「そ、そんなの、知らない」あくまでシラを切るつもりか?どう追い詰めるか……。「お客様。大変申し訳ないのですが」「はい。すぐ出ます。こちらこそ迷惑かけて申し訳ない。おい、2人
朔兄ぃ指導のもと、里香との面談の日を決めた。『話がある。近いうちに会えないか』既読はすぐについた。『ずっと待ってたよ。明日はどう?』あ、明日、だと……?テンポ早過ぎないか?朔兄ぃにスマホの画面を見せる。「明日の……夕方だったら、たぶん俺動ける」「ついてきてくれるんすか、朔兄ぃ!」ここに絵文字をつけるなら滝のように涙を流しているアレだろう。「相談受けたのにお前が刺されたら、おばさんに何か言われそうだからな」「……その、刺される前提やめてもらえませんか」「今の時点でお前が刺されてないのが奇跡だっつーの」朔兄ぃ、いつからこんなに物騒なこと言う人になったんだろう。警察、やっぱ大変なんだな。俺の就活の候補に警察官は除外決定だな。「お前今、警察大変とか思っただろ」やべ。俺、顔に出てたか。俺の顔をちらりと見るその眼は、昔の朔兄ぃよりかなり鋭かった。「思ってま……思いました。俺にはやれる気がしないって」「甘いな。警察官になる勢いで本気出さないと、好きな女も守れないんだぞ」本気を出さずに守れなかった好きな女がいたのだろうか。めちゃくちゃ気になるけど、今はももちゃんを守る作戦の方が大事だ。黒川駅から2駅離れたところにあるカフェで里香と会うことになった。朔兄ぃから預かった超小型マイクを付けて里香と話す。何かあったら朔兄ぃが駆けつけてくれる手筈だ。行きたくない。でも行かないとももちゃんの身が危ない。そうだ、俺はももちゃんを守るために行くんだ。どんな恨み言も罵詈雑言もどんと来いだ。この世の全てのマイナスワードを俺に浴びせるが良い。待ち合わせ5分前。里香が店に入るのを見届けた朔兄ぃは、里香がいるテーブルの隣の席を陣取った。流石だ。約束の時間になった。腹を括れ!俺。いざ!勢いよくカフェのドアを開けた。思いの外大きなベルの音が頭上で鳴り響いた。
『明日、家に来なさい。話があります』里香との遭遇から2日後。おかんからLINEが来た。何これ。文面ちょっと怖いんですけど。俺、特に何もやらかしてないはずだけど。放置する方が怖いから行くけどさ。久しぶりに実家に帰った俺を迎えたおかんは、神妙な顔で俺に数枚の紙を見せた。「何これ?」「まあ、読んで」【許さない許さない許さない許さない許さない許さない……】【速水くんは私の彼氏です。裏切るなんてありえない】【速水くんが愛してるのは私】【速水くんの彼女はあんな女じゃない。私なの】手書きのA4の紙に延々と綴られた文字に、俺は人生初の貧血を起こしかけた。「心当たり、あるんだよね?」「あ、ああ……」駄目だ。目の前がチカチカする。ダイニングの椅子に座ってなかったら、とうの昔に卒倒していただろう。「だいぶヤバそうな相手ってのは確実だね」「ああ……」おかんの言葉に、俺は辛うじて言葉を発した。「で。どうすんの」「どうするって……言われても……」こんなの見せられて。頭がまともに働くわけないだろう。「気持ちはわからないでもないけどさ。早急に手を打っておかないと。相手の子、あんたの彼女のこと知ってるの?」無言で頷いた。何せ、ももちゃんが横にいる状態で物を申したからな。「それはだいぶ……まずいなあ」難しい顔をしたおかんは、おもむろにスマホを取り出した。どこかに電話をかけているようだ。警察だろうか。結構怖い思いはしているが、大事にしたくないのが本音なんだけど。「──お久しぶり。あのね、ちょっと相談したいの。……うん、そう、朔《さく》ちゃんに」……朔兄《に》ぃ?朔兄ぃとは、俺の歳離れた従兄弟だ。妹の梨愛《りあ》さんは密かに俺の初恋……いや、初恋はももちゃんだけど。でも多分、人生で初めて憧